「卵と小麦粉それからマドレーヌ」(石井睦美)

中学校1年生の女の子とお母さんに薦めたい一冊

「卵と小麦粉それからマドレーヌ」
(石井睦美)ポプラ文庫ピュアフル

中学校へ入学したばかりの菜穂は
「もう子どもじゃないって
思ったときって、いつだった?」と
話しかけてきた亜矢と仲良くなる。
13歳の誕生日を迎えた日、
ママがパリへ留学することを知り、
菜穂は激しく混乱する…。

小学生が読むべき文学が児童文学なら、
中学生が読むべき小説は
「生徒文学」と呼ぶべきかもしれません。
これぞ「生徒文学」というべき一冊です。
中学校1年生になった女の子の
9ヵ月間の成長を
生き生きと描いています。
暗い事件がありません。
あるのは女の子の母親が
半年間パリへ留学することだけです
(現実の一般家庭では
相当な大事件ですが)。
それをきっかけに、
女の子が一皮むけて
大人への第一歩を踏み出す、
いわゆる少女の成長物語です。
亜矢との交流から菜穂は、
「変わるのは自分」であることに
気付いていくのです。

中学生の成長物語は、
悲劇が起きたり、大事件が起きたり、
そうでなければ
恋愛したあとの失恋だったり。
でも本作品は違います。
家族の在り方と
自分の生き方の二つに
しっかりと焦点を当て、
多感な子どもの心の動きを
見事に表現しているのです。
菜穂と同じ年齢の女子のみなさんに、
ぜひ読んでもらいたいと思います。

そしてこの作品、中学生だけでなく、
中学生の子どもをお持ちの
女性の方にも薦めたいと思っています。
本作品の主役は
もしかしたら娘の菜穂ではなく、
ママではないかと思うからです。
40歳になってから、
自分の夢を実現しようと行動するママ。
こつこつと料理学校で
料理とフランス語を学び、
巡ってきたチャンスをしっかりつかみ、
家庭と自分の夢の実現の
両立を果たそうとするのです。
俗な言い方ですが「かっこいい」です。
「かっこよすぎる」生き方です。
行動力のない私は憧れてしまいます。
いくつになっても
夢を持ち続けることは
大切なことだと思います。
そんな当たり前のことを
再発見したような気持ちです。

本書も、やはりおじさんが
読むべき本ではないことは
重々承知です。
でも、何度か書きましたが、
生徒文学と呼べるものが
少ない日本の出版状況です。
私は生徒文学を発掘し、
紹介したいと考えています。
石井睦美作品はそうした意味で
貴重な存在と私はとらえています。
「皿と紙ひこうき」同様、
生徒文学の貴重な一冊として、
中学校1年生の女の子と、
中学生の子どもを持つお母さんに、
それもぜひ
親子で読むことを薦めたいと思います。

(2019.7.5)

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